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レバノンでGalaxy A02sの発売価格がiPhone 11を上回る



レバノンで発売時の価格を基準として韓国のSamsung Electronics (サムスン電子)製のスマートフォン「Samsung Galaxy A02s」の価格が米国のApple製のスマートフォン「iPhone 11」の価格を上回る事態が発生した。

レバノンの移動体通信事業者(MNO)でAlfaとして展開するMobile Interim Company 1 (以下、MIC1)は2021年6月にSamsung Galaxy A02sを2,695,000レバノンポンドで発売しており、iPhone 11の2,065,000レバノンポンドを上回った。

表記の金額はいずれも付加価値税込で、内蔵ストレージの容量はSamsung Galaxy A02sが64GB、iPhone 11が128GBである。

レバノンでは同国の法定通貨であるレバノンポンド(LBP)に加えて米ドル(USD)も一般的に通用し、MIC1は原則として米ドルでスマートフォンを販売してきた。

しかし、レバノン危機に伴いレバノンポンドが下落かつ米ドルが不足し、米ドルの引き出しに制限がかけられたため、MICは2020年1月よりレバノンポンドでのスマートフォンの販売を余儀なくされた。

そもそも、MIC1がレバノンポンドでスマートフォンを販売することが異例の事態で、レバノンポンドでスマートフォンを発売した当時のiPhone 11の価格が2,065,000レバノンポンドとなっていた。

Samsung Galaxy A02sとiPhone 11を正規に発売したマレーシアでは発売時の価格は前者が529マレーシアリンギット、後者が3,599マレーシアリンギットに設定されていた。

邦貨換算額では前者が約14,000円、後者が約95,000円で、日本円(JPY)とマレーシアリンギット(MYR)いずれもiPhone 11はSamsung Galaxy A02sの約6.8倍に達する。

すでにMIC1はiPhone 11の販売を終了したが、低価格帯の機種であるSamsung Galaxy A02sの価格が高価格帯の機種であるiPhone 11の価格を上回ったことになる。

このような事態が発生した原因はレバノンポンドの急落である。

レバノンの中央銀行であるBanque du Libanの公定レートでは1米ドルを1,507.5レバノンポンドに固定しているが、もはや機能しておらず、国有の移動体通信事業者であるMIC1でさえも2019年12月時点で1米ドルを1,515レバノンポンドで計算していた。

実勢レートは2020年1月時点で1米ドルが約2,200レバノンポンド、2021年6月時点で約18,000レバノンポンド、2021年7月時点で約23,000レバノンポンドを記録しており、レバノンポンドは2年足らずで約15分の1まで価値を落とした。

iPhone 11を2020年1月時点、Samsung Galaxy A02sを2021年6月時点の実勢レートで計算すると前者が約939米ドル、後者が約150米ドル、分かりやすく邦貨換算額で表記すると前者が約103,000円、後者が約17,000円となり、物品サービス税を廃止したマレーシアでの発売時の邦貨換算額を少し上回る程度で、大きな開きはない。

MIC1は米ドルでスマートフォンを仕入れ、レバノンポンドで販売するが、19世紀半ば以降に発生した世界の3大経済危機のひとつとも言われる深刻なレバノン危機でレバノンポンドが価値を失う中で、公定レートを適用して販売すると事業がもはや成立しないため、価格の設定は実勢レートを考慮している。

その結果としてiPhone 11の約1年半後に発売したSamsung Galaxy A02sの価格がiPhone 11の価格を上回ることになった。

レバノンポンド建てではスマートフォンの価格が高騰していることになるが、あらゆる品目の物品を輸入に頼るレバノンでは日用品や食料品などの価格も高騰しており、2019年夏から2021年夏の食料品の物価上昇率はラバネ(ラブネ)が270%、米が627%、ヒマワリ油が1,100%との調査結果もある。

米ドル不足の影響で給与の支払いを米ドルからレバノンポンドに切り替えた企業も存在し、MIC1もそのひとつであるが、一部の外交官、外資系企業、国際企業、国際機関などを除いてレバノンの一般国民はレバノンポンドで給与を得ているため、物価上昇はレバノンの一般国民の日常生活に大きな影響を与えている。

富裕層はレバノンから逃げることもできるが、当然ながらレバノンの一般国民にとってそれは簡単ではない。

従来から高い失業率がさらに上昇する中で、職に就くこと自体が容易ではないが、レバノンポンドの下落に伴い給与が上がるわけでもなく、レバノンの一般国民は厳しい生活を余儀なくされている。

例えば月給が2,500,000レバノンポンドであれば、公定レートを適用できた時代には1,658米ドルの価値があったが、もはや109米ドルの価値しかない。

過去には1ヶ月分でiPhone 11を購入できたが、約1年半後にはSamsung Galaxy A02sでさえ購入できないことになる。

もっとも食料品の購入が経済的に困難な世帯が80%前後にも達すると推定される状況で、スマートフォンの購入など最優先事項でないことは火を見るよりも明らかであるが、スマートフォンの価格動向からもレバノンの深刻な状況を見て取れる。

もし筆者がレバノンで生活していたならば、楽器に紛れてでもレバノンから逃げることを検討していたかもしれない。

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