北朝鮮で新たな携帯電話キャリアが誕生へ、厳しい状況のkoryolinkと統合も検討
- 2015年06月26日
- DPRK
朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の移動体通信事業者であるCHEO Technology JV Company (本社・平壌:逓オ技術合作会社/체오기술합작회사:以下、CHEO Technology)の筆頭株主であるエジプトのOrascom Telecom Media and Technology Holding (オラスコム・テレコム・メディア・アンド・テクノロジー・ホールディング/오라스콤전기통신수단 및 기술주식회사:以下、OTMT)は2015年6月24日付けで公示した決算報告書において北朝鮮国内で新たな移動体通信事業者が参入することを明らかにした。
CHEO Technologyはサービスブランドをkoryolink (高麗網/고려망/고려링크)としてW-CDMA方式で移動体通信サービスを提供していることが知られている。
OTMTは公開した決算結果においてCHEO Technologyの事業は主に3つの困難に直面していることを公表している。
まずは1つ目は国際的な対北朝鮮の経済制裁による金融取引や資材の輸送の制限が挙げられている。
金融取引や資材の輸送が規制されていることで、製品やネットワーク関連技術の開発およびネットワークの維持が困難になり、またCHEO TechnologyからOTMTへ収益の送金が滞っているという。
2つ目は為替レートの問題としており、北朝鮮はCentral Bank of the Democratic People’s Republic of Korea (朝鮮民主主義人民共和国中央銀行/조선민주주의인민공화국중앙은행)が公示する公定レートと市場交換レート(実勢レート)が存在するが、OTMTが財務諸表の通貨換算で採用する公定レートすら適用できないとのことである。
そして、3つ目に新たな競合相手の誕生を挙げている。
北朝鮮で設立された新たな移動体通信事業者は社名およびブランド名が記載されていないが、北朝鮮政府の100%出資とされている。
なお、CHEO Technologyへの出資比率はOTMTが75%、北朝鮮政府機関の逓信省(Ministry of Posts and Telecommunications/체신성)が完全所有するKorea Posts and Telecommunications Corporation (朝鮮逓信会社/조선체신회사:以下、KPTC)が25%となっている。
OTMTが公開した決算結果によると、新たな移動体通信事業者はCHEO Technologyにも出資をする北朝鮮政府が出資しているとのことで、実際にはKPTCが単独で運営している可能性が高い。
北朝鮮の移動体通信の歴史を遡ると、タイのLoxleyなどから構成されたLoxpac (Thailand)が70%出資、KPTCが30%出資のNorth East Asia Telephone and Telecommunications Co., Ltd. (本社・羅先:東北アジア電話通訊会社/동북아시아전화통신회사:以下、NEAT&T)が北朝鮮最初の移動体通信事業者として羅先(当時、羅津)で設立された。
Loxpac (Thailand)は設立時の社名がLoxley Pacificであるが、後にLoxpac (Thailand)に社名を変更している。
NEAT&Tは移動体通信のみならず国際電話などの免許も付与されており、移動体通信については当初は羅先のみでGSM方式の免許が付与されたものの、最終的には羅先と平壌を含む北朝鮮全土を対象にサービスブランドをSUNNETとしてサービスを開始した。
しかし、NEAT&Tのサービスは長くは続かず、NEAT&Tの終了後は同社の設備を利用してKPTCが引き続きSUNNETとして限定的な移動体通信サービスを提供していた。
2008年12月15日にCHEO Technologyがサービスを開始してから2014年6月末には利用者が240万まで増加したが、それからしばらくは利用者の増加が停滞気味となっており、競合相手の登場は困難な状況をより困難にしていると言える。
CHEO Technologyの状況を厳しく受け止めたOTMTは、CHEO Technologyと新たな移動体通信事業者を統合させることも視野に、問題の解決に向けて北朝鮮当局と協議を継続することを明かしている。
最終的にはOMTMは新たな移動体通信事業者にCHEO Technologyを吸収させて、北朝鮮における移動体通信事業から撤退することを計画している可能性もある。
なお、新たな移動体通信事業者はネットワークの展開は開始している模様であるが、移動体通信サービスまで開始しているかどうかは不明である。
CHEO Technologyは移動体通信サービスの開始当初は2012年末までの独占事業権が与えられており、2012年には外資が資本参加する企業としての独占事業権が3年間延長となり2015年末まで外資が資本参加する企業としての独占事業権を保有する。
独占事業権が守られているのであれば2015年中はCHEO Technology以外の外資企業が資本参加する企業は移動体通信サービスを提供できないが、完全に北朝鮮資本の企業であればそうではなく、また2016年からは新たなすべての企業の参入が可能となるため、すでに参入の動きが見られても不思議ではないと言える。
■追記
2015年第3四半期末の時点で新規参入に関して報じられたByolの移動体通信サービスは開始しておらず、北朝鮮のSTAR JOINT VENTURE (星合営会社/별합영회사:以下、STAR JV)が移動体通信事業に新規参入を検討していたことが分かった。
STAR JVは北朝鮮のインターネットサービスプロバイダであり、北朝鮮政府とタイのLoxleyの系列会社で香港特別行政区のLoxpac Hong Kongの合弁会社である。
一方で、新たな移動体通信事業者としては北朝鮮の政府機関で電気通信分野を管轄するKorea Posts and Telecommunications Corporationがブランド名をKANGSONG NET (強盛網/강성망)として提供しているが、提供エリアがCHEO Technologyとは異なるため両社は競合関係になく、国内ローミングにより相互に補完して一体した移動体通信サービスを提供している。
なお、北朝鮮における移動体通信事業者やLoxleyの系列会社が手掛ける事業に関しては関連記事を参照されたい。
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