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ファーウェイCFOの仮逮捕状を読んでみた



カナダで中国のHuawei Technologies (華為技術)の孟晩舟容疑者が逮捕された。

すでに孟晩舟容疑者は条件付きで釈放されたが、孟晩舟容疑者の仮逮捕状の請求について裁判所が発行した書類の全文がカナダメディアによって公開された。

書類には米国当局の捜査内容も詳細に記載されているため、状況の理解を深める目的で読んでみた。

Huawei Technologiesは香港特別行政区のSKYCOM TECH. (星通技術)を通じて制裁対象国のイランの電気通信事業者との取引が疑われており、SKYCOM TECH.との関係についても詳細に綴られている。

そこで、米国当局の捜査で判明した事実から仮逮捕状の請求に至った背景などを紹介する。

事実摘要では孟晩舟容疑者と香港特別行政区のSKYCOM TECH.に関する記述が中心となり、その主な内容は下記の通り。

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孟晩舟はHuawei Technologiesの創業者である任正非の娘で、Huawei Technologiesの副会長に相当する副董事長および最高財務責任者(CFO)を務めるほか、Huawei Technologiesの子会社や関連会社で様々な役割を果たす。

SKYCOM TECH.では2008年2月から2009年4月まで取締役に相当する董事を務めた。

SKYCOM TECH.の財務諸表によれば、SKYCOM TECH.の主要事業はイランでの投資や契約の請負業者である。

Huawei TechnologiesはSKYCOM TECH.との関係を隠し、SKYCOM TEC.を非公式の子会社としてイランで事業を展開した。

SKYCOM TECH.の従業員はHuawei TechnologiesとSKYCOM TECH.が異なるとは証言しなかった。

例えば、SKYCOM TECH.の従業員はHuawei Technologiesの電子メールアドレスとバッジが付与され、SKYCOM TECH.のマネージング・ディレクターはHuawei Technologiesの従業員で、覚書を含むSKYCOM TECH.の公式文書にはHuawei Technologiesのロゴが記された。

SKYCOM TECH.の複数の銀行口座はHuawei Technologiesの従業員によって管理され、Huawei Technologiesの従業員は2007年から2013年にSKYCOM TECH.の口座に署名した。

米国当局が入手した文書や取引記録では、Huawei TechnologiesがSKYCOM TECH.との関係を隠しながら、イランに関連した事業を行う非公式な子会社としてSKYCOM TECH.を運営していたことを示す。

SKYCOM TECH.に関する情報の一部は登記情報などでも確認されており、またロイターを含めた外国メディアの報道でも伝えられていた。

米国当局は捜査を通じて入手した一連の情報から、SKYCOM TECH.はHuawei Technologiesの支配下にあったと結論付けたと分かる。

そのうえで、孟晩舟容疑者の容疑を記述しており、その主な内容は下記の通り。

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米国当局の捜査によると、孟晚舟とほかのHuawei Technologiesの責任者は銀行サービスを受けるために、米国で活動する世界的な金融機関を含む多数の金融機関に対して、SKYCOM TECH.がHuawei Technologiesの子会社として運営されている事実を隠して虚偽の陳述を繰り返した。

一般的に制裁対象国で事業を行う企業は米国を通じた米ドル決済やユーロ圏を通じたユーロ決済取引によって制裁対象国から送金することが多い。

しかし、米国や欧州連合の法制度では制裁対象国のイランに関連するサービスの提供を禁じており、それには金融機関の銀行サービスが含まれる。

孟晩舟の陳述によって金融機関は正しい意思決定を行う機会を失い、金融機関に制裁関連法の違反で罰金や資産没収などの厳罰を受けるリスクを与えたほか、2010年から2014年には1億米ドル(約113億円)以上に相当するSKYCOM TECH.に関連した決済を行った。

ロイターでHuawei TechnologiesとSKYCOM TECH.の関係を報じた記事が掲載されたが、それに対する金融機関の事実確認でもHuawei TechnologiesはSKYCOM TECH.の支配を否定した。

孟晩舟はHuawei TechnologiesとSKYCOM TECH.の契約は通常の事業協力であり、Huawei Technologiesは輸出管理関連法を遵守するようSKYCOM TECH.に求めたと述べたが、先の米国当局の捜査で判明したようにSKYCOM TECH.はHuawei Technologiesであった。

孟晩舟は金融機関に対して自分自身で自分自身の認識を説明し、孟晩舟の説明は金融機関がHuawei Technologiesとの顧客関係を維持すると決断した重要な動機となった。

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孟晩舟容疑者は虚偽の陳述を繰り返し、金融機関に厳罰を受けるリスクを与えたほか、陳述を信用した金融機関を通じてイランに関連した決済に成功していた模様である。

そのため、米国当局は孟晩舟容疑者が米国の金融機関を欺いたとして詐欺の疑いで仮逮捕状を請求したと分かる。

また、カナダ当局に仮逮捕を依頼した背景も判明しており、その主な内容は下記の通り。

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孟晩舟は2018年12月1日にキャセイパシフィック航空838便(CX838)でカナダのバンクーバーへ渡航し、メキシコに向けて乗継すると思われる。

孟晩舟はバンクーバー国際空港(YVR)に11時30分(米国太平洋標準時)に到着する予定で、KJ040XXXXの旅券番号を有する香港特別行政区の旅券で移動する。

※原文では旅券番号まで公表されているが、本記事では下4桁を伏せる。

米国当局は2018年11月29日に孟晩舟がカナダに渡航する情報を最初に入手した。

孟晩舟が2018年12月1日にカナダで仮逮捕されない限り、不可能ではないにしても、米国当局が孟晩舟の身柄を確保して米国で起訴することは非常に困難である。

米国と中国は引き渡し条約を締結しておらず、中国の主要企業の最高財務責任者かつ創業者の娘である孟晩舟は自由に使える大量の資産を保有し、無期限に米国外に渡航および滞在できる能力を有する。

米国当局はHuawei Technologiesの米国子会社にHuawei Technologiesのイランに関連した事業のすべての情報を提供するよう2017年4月に召喚令状を送付したが、それに伴いHuawei Technologiesは同社に対する米国当局の捜査を認識したと米国当局は考えている。

その結果、Huawei Technologiesの幹部は米国への渡航を避け、孟晩舟も米国への渡航を中止した。

孟晩舟は2014年、2015年、2016年に複数回にわたり米国へ渡航したが、米国への最後の渡航は2017年2月末から2017年3月初めまでだった。

ほかのHuawei Technologiesの幹部は2013年から2016年までに少なくとも4回にわたり米国を訪れ、その後に米国に渡航した記録はない。

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孟晩舟容疑者を含むHuawei Technologiesの幹部は米国当局の捜査の手が迫っていることを察知し、米国への渡航を避け始めた模様である。

もちろん、米国に渡航すれば身柄を拘束される可能性があったことを十分に認識していたからだろう。

そのため、米国当局が米国内で身柄を拘束することは難しくなり、引き渡し条約を締結しているカナダ当局に仮逮捕を依頼したと分かる。

以下、個人的な雑感を書いておこうと思う。

まず、Huawei TechnologiesとSKYCOM TECH.の関係について、米国当局が主張するようにSKYCOM TECH.はHuawei Technologiesであると考えている。

登記情報など一般に入手できる情報もあり、隠蔽工作にしてはあまりにも雑な印象を受けたが、それはどうでもよくて、発見された証拠があまりにも多すぎるため、状況的にSKYCOM TECH.はHuawei Technologiesの支配下にあったと判断するのは自然だろう。

問題はSKYCOM TECH.とHuawei Technologiesの関係性に関する陳述で、米国当局の捜査が確かであれば、米国の銀行を欺いたとして米国で裁きの対象になるのは当然である。

米国当局は孟晩舟容疑者が自ら米国の金融機関に説明したと確認した模様であるが、これからは孟晩舟容疑者の独断か、もしくはHuawei Technologiesの組織的な行為かの判断が焦点になると推測している。

孟晩舟容疑者の独断であれば本人のみを処分すれば問題ないが、Huawei Technologiesの組織的な行為と認められることになれば、Huawei Technologiesの法人自体が処分の対象となる可能性が高くなる。

とりあえず、米国当局が確かな証拠を掴んだ容疑で仮逮捕状を請求したと考えられるが、イランでの事業を隠した背景にはイランを仕向地とした不正な輸出が行われた可能性があり、米国当局によってそれも確認されることになれば、余計に厄介な事態になるだろう。

イランを仕向地とした輸出とそれに関する隠蔽や虚偽の陳述での処分は中国のZTE (中興通訊)に対する厳罰が記憶に新しいはずで、やはりHuawei Technologiesとしてはそれを恐れていると考えている。

従来から米国当局は制裁対象国を仕向地とした不正な輸出には処分を下しており、通信障害で話題となったスウェーデンのEricssonも処分を受けたことがある。

Ericssonは2011年末から2012年半ばまでに制裁対象国のスーダンを仕向地とした輸出で違反が認められ、2018年6月に145,893米ドル(約1,655万円)の罰金の支払いで和解した。

邦貨換算額で1,655万円程度の罰金であり、ZTEが邦貨換算額で1,000億円超の罰金を2度も命じられたことに比べると、極めて安いと分かる。

Ericssonの場合は内部で徹底的に調査を実施し、自発的に違反の事実を米国当局に申告したほか、スーダンへの輸出に関与した従業員はEricssonの法令遵守関連部門からの注意を無視して実行かつ退職済みのため、Ericssonの組織的な関与もないと判断された。

制裁対象国が絡んだ問題では中国以外の企業も処分される中で、昨今の米中関係を考慮すると中国企業はより標的として狙われやすくなり、またHuawei Technologiesのような技術力が高い企業は覇権争いで対峙する相手国からの警戒度は間違いなく高まる。

また、トランプ政権はイランに対する経済制裁の再開などイランに対する締め付けを強化しており、イランに関連した問題は余計に都合が悪い。

EricssonやZTEの事案を振り返っても分かるように、捜査には相当な時間が必要で数年前の行為まで処分の対象となり、昨今の情勢動向を受けてから行動に注意しても遅い問題であるが、そもそも米国のHuawei Technologiesに対する警戒は今に始まったことではない。

3.5GHz帯の第5世代移動通信システム(5G)に対応した商用機器の開発ではHuawei Technologiesが最も進んでいるとの話も聞いたことがあり、Huawei Technologiesの技術力の高さは疑いようもない。

第5世代移動通信システム(5G)の本格化を控えて、米国当局は交渉カードとしての利用も含めてHuawei Technologiesを締め上げるタイミングを虎視眈々と狙っていたのは確かだろうとは見ている。

Ericssonはスーダンを仕向地とした輸出を除けば、完璧に近い対応で軽い罰金のみで済んだ。

しかし、ZTEのように組織的にイランを仕向地とした輸出を行い、しかも規模がそれなりに大きく、隠蔽や虚偽の陳述まで行うと、処分は重くなるばかりである。

1度目であれば商務省(Department of Commerce:DOC)傘下の産業安全保障局(Bureau of Industry and Security:BIS)による取引制限の対象となるEntity Listにとどまる可能性も高いが、悪質性が強ければ取引禁止の対象となるDenied Persons List (DPL)、または財務省(Department of the Treasury)傘下の外国資産管理局(Office of Foreign Asset Control:OFAC)による資産凍結や包括的取引禁止の対象となるSpecially Designated Nationals And Blocked Persons List (SDN)として掲載される可能性も絶対にないとは言い切れない。

すでに孟晩舟容疑者およびHuawei Technologiesに対する米国当局の捜査は進んでおり、特に孟晚舟容疑者に関しては仮逮捕状を請求した根拠も詳細に述べられているため、無実であれば逃げずに米国当局の捜査内容に対して十分に情報を開示かつ真摯に対応して無実を証明してほしいし、そうでなければ処分が軽くなるような対応に努めてほしい。

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