レバノンのAlfaは北朝鮮のkoryolinkと実質的に兄弟関係、その背景は
レバノンの首都・ベイルートおよびその近郊都市に渡航して同国の携帯電話市場を現地了解してきた。
筆者が渡航した2019年12月下旬の時点でレバノンの移動体通信事業者(以下、MNO)はMobile Interim Company 1 (以下、MIC1)およびMobile interim company no.2 (以下、MIC2)の2社が存在し、いずれも国有企業である。
MIC1はAlfaのブランド名、MIC2はtouchのブランド名で展開しているが、このうちAlfaのロゴにはAlfa Managed by Orascom Telecomと記載されている。
Alfaに付されるManaged by Orascom Telecomにはレバノンの携帯電話市場の特殊な事情が関係している。
そこで、レバノンの特殊な事情やAlfa Managed by Orascom Telecomと表記される背景、さらには東アジアのあるMNOとの関係も解説したいと思う。
■ Managed by Orascom Telecomの背景
レバノンでは国有のMNOを同国の政府機関で電気通信分野の規制を司る電気通信省(Ministry of Telecommunications:MoT)が実施した入札で選定された企業が管理契約を締結および管理する特殊な形態を採用している。
あくまでも免許人は国有企業で、入札で選定された企業に対してMNOとしての携帯通信事業の免許が付与されるわけではなく、これはMIC1とMIC2ともに同様である。
AlfaのロゴにはAlfa Managed by Orascom Telecomと記載されているが、これは一般的にOrascom Telecomとして知られたエジプトのOrascom Telecom Holding (以下、OTH)が子会社でレバノンのOrascom Telecom Lebanon (以下、OTL)を通じてMIC1を管理していたことに由来する。
OTLを通じてMIC1を管理していたOTHであるが、オランダを拠点とする英領バミューダ諸島のVimpelComによって買収されることになった。
ただ、VimpelComは朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)やレバノンの携帯通信事業など一部事業は買収対象に含まず、レバノンの携帯通信事業にあたるOTLはVimpelComによる買収対象から外れた。
VimpelComが買収しない事業はOTHの創業家一族がエジプトで新設したOrascom Telecom Media and Technology Holding (以下、OTMT)が承継し、OTLはOTMTの子会社となった。
なお、OTHは創業家一族の経営から離れたため、社名にOrascomの名を冠することが認められず、Global Telecom Holding (GTH)に社名変更したほか、VimpelComはVEONに社名変更した。
OTMTは2018年7月9日に社名をOrascom Investment Holding (以下、OIH)に変更したが、OTLはOTHの子会社の時代から社名を維持している。
Orascom Telecomとして知られたOTHやOTMTの社名こそもはや存在しないが、Orascom Telecomの名が残るOTLが直接的にMIC1を管理する企業である点には変わらないため、その観点からAlfa Managed by Orascom Telecomでも正しいと言える。
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Alfa Managed by Orascom Telecomのロゴ
■ 北朝鮮のkoroylinkと実質兄弟
OIHは2019年12月末時点でレバノンのほかに北朝鮮でも携帯通信事業を手掛ける。
北朝鮮ではMNOとして携帯通信事業を行うための免許を保有するCHEO Technology JV Company (逓オ技術合作会社:以下、CHEO)を通じてkoryolinkのブランドで展開している。
なお、koryolinkには朝鮮語のブランド名として高麗網(고려망)も存在する。
CHEOの設立当初はOTHの子会社と位置付けられ、その後にOTMTの子会社となったが、2015年第3四半期には位置付けを子会社から関連会社に変更した。
免許人であるMIC1とCHEOはいずれもOIHの子会社ではなく、MIC1とCHEOは兄弟会社でもないが、AlfaとkoryolinkはOIHが技術や資金を投じて成長させてきた。
そのため、実質的にAlfaとkoryolinkはOIHに育てられた兄弟に近い状況と言える。
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koryolink (左)とAlfa (右)のSIMカード
■ 5Gも準備するAlfa
OIHが認めたように北朝鮮に対する国際的な制裁措置の影響で、CHEOが通信設備を調達することが困難な状況となっている。
CHEOには中国の通信機器ベンダが通信設備の納入実績があるが、米国を筆頭に中国の通信機器ベンダに対して締め付けを強化しており、これも状況をより困難にしている。
一方、Alfaの事業は当然ながら制裁措置の影響を受けないため、MIC1は第5世代移動通信システム(5G)の商用化に向けて5G基地局を試験的に設置するなど、北欧の通信機器ベンダと協力して新しい通信設備の導入を進めている。
OIHの取り組みやAlfaの事業を知ることで、koryolinkの事業に与える制裁措置の影響を推し量ることもできる。
国際連合安全保障理事会(United Nations Security Council)は北朝鮮に対する追加制裁として決議第2375号(2017)を2017年9月11日に全会一致で採択し、原則として北朝鮮の個人や事業体と行う合弁事業の新規開設や維持および運営を禁止した。
北朝鮮の事業体との合弁事業であるCHEOは解体の可能性が生じたが、koryolinkの事業は国際連合安全保障理事会の1718委員会より公益性が高い事業と認められ、CHEOは1718委員会より北朝鮮の事業体との合弁事業の継続が正式に承認された。
koryolinkの事業は1718委員会が厳しい審査を経て継続を承認されただけに、通信設備の調達など事業の継続に必要な取引は許容すべきのようにも感じる。
なお、OTLのMIC1の管理契約は2019年12月31日に満期を迎えた。
2020年1月1日以降は管理契約を暫定的に延長している状況で、早ければ2020年第1四半期中にも管理契約が終了し、OTLの管理下では5Gの商用化を実現できない可能性もある。
■ 本部でSIMカードを購入
ここからは余談となるが、筆者は北朝鮮の首都・平壌直轄市を訪問した際に、CHEOの中心的な事業拠点である国際通信局(INTERNATIONAL COMMUNICATIONS CENTRE)に設置されたCHEOの直営店でkoroylinkのSIMカードを購入した経験がある。
MIC1の中心的な業務拠点であるParallel Towersにも直営店が設置されているため、そこでAlfaのSIMカードを購入することにした
Parallel Towersはベイルートではなく、ベイルート近郊の山岳レバノン県デクワネーに所在し、Parallel Towersに設置されたAlfa Storeは旗艦店と位置付けられている。
ベイルートから外れており、日曜日は休業日など多少の不便もあるが、旗艦店だけに携帯端末の展示などは充実している。
レバノンに渡航時はParallel Towersに設置された直営店でAlfaのSIMカードを購入するのも大変意義深い体験になると思われる。
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Parallel Towersに設置されたAlfa Storeの旗艦店
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