レバノンのtouch、シリア難民向けプランを提供
- 2020年01月10日
- Report
レバノンの首都・ベイルートに渡航してレバノンの移動体通信事業者(以下、MNO)であるMobile interim company no.2 (以下、MIC2)のService Centerを訪問した。
MIC2はtouchのブランドで携帯通信事業を展開しており、Service CenterではSIMカードの購入をはじめとする様々な手続きを取り扱う。
touchのプランを確認していると、レバノンならではのプランの存在に気付いたので紹介する。
なお、レバノンの携帯電話市場は特殊な形態で、国有のMNOをレバノンの政府機関で電気通信分野の規制を司る電気通信省(Ministry of Telecommunications:MoT)が実施した入札で選定された企業が管理契約を締結および管理する特殊な形態を採る。
管理契約に基づきMIC2はクウェートのMobile Telecommunications Company (以下、MTC)が完全子会社でレバノンのMobile Telecommunications Company Lebanon (MTC) (以下、MTCL)を通じて管理している。
Zainのブランドの所有者として中東で広く知られるMTCがMTCLを通じて管理することから、しばしばtouchのロゴにはしばしばManaged by Zainと付される場合がある。
■シリア特化プランが存在
touchのプリペイド向けプランを確認していると、少し特異なプランが存在することに気付いた。
それがAl Tawasolである。
Al Tawasolには40分のシリア宛の音声通話、30件のシリア宛のSMS、10分のレバノン国内の音声通話、10件のレバノン国内の音声通話、100MBのレバノン国内のデータ通信が含まれる。
音声通話やSMSはレバノン国内宛よりシリア宛の方がより多く使えるよう設計されており、シリアとの連絡に特化したプランと考えられる。
料金は11米ドル(約1,200円)で、有効期間は30日である。
有効期間は短期滞在者向けプランであるVisitor Lineの14日より長く、一般的なレバノン居住者をターゲットとしたプランと同じ日数であるため、Al Tawasolもレバノン居住者をターゲットにすると分かる。
MIC2はAl Tawasolに関して、レバノンに居住するシリア人が故郷の人々と連絡を取り合うためのプランと位置付けている。
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touchのService Center (ベイルート)
■シリア特化プランの背景にシリア情勢
レバノンは陸地で接する国境の多くをシリアと接し、シリアに囲まれたような印象も受けなくはない。
そんなシリアでは2011年からシリア内戦が続いており、シリアから退避する多くの難民をレバノンが受け入れている。
世界銀行(The World Bank Group)によるとレバノンの人口は2018年時点でわずか約685万人である。
人口の増加率は2005年から2010年までは約5.4%増にとどまるが、2010年から2018年までは約38.3%増と急増した。
特に2010年から2017年までは約35.5%増と高い増加率を記録したが、この急激な人口の増加にはシリア難民の受け入れが影響しており、その受入数は2017年時点で150万人にも達すると推定されている。
また、レバノンは人口当たりの難民受入数が世界最多とも言われるほどで、2019年時点でシリア難民は人口の4分の1にも達するとの見方まである。
筆者自身、レバノン滞在中は配車サービスの運転手や飲食店など様々な場所でシリア出身者と接し、確かにシリアから退避してきたシリア人が多いことは身をもって実感した。
MIC2はAl Tawasolをレバノンに居住するシリア人向けとしているが、より具体的にレバノンで増加するシリア難民を念頭に置いて設計したプランと推察できる。
シリアへの帰還が困難な状況が長期化するにつれて、レバノン国内で長期居住および就業するシリア難民も増加しており、MIC2はシリア難民をターゲットとしたビジネスは成立すると判断した模様で、Al Tawasolはレバノンならではのプランと言える。
MIC2は2015年5月にAl Tawasolの提供を開始し、4年半以上にわたり継続して提供していることになるが、それだけ需要があると思われる。
■携帯電話普及率が低いレバノン
参考までにレバノンの携帯電話市場を簡潔に紹介しておくと、2019年第3四半期時点で携帯電話サービスの加入件数のうちMNO別ではMIC2が約54%、残りをAlfaのブランドで展開するMobile Interim Company 1 (MIC1)が占める。
支払方式別ではプリペイドが約86%、残りがポストペイドとなっている。
携帯電話サービスの普及率は2019年半ばの時点で6割台にとどまり、周辺の中東諸国と比べて明らかに低い。
レバノンはシリアに加えてパレスチナからも難民も受け入れており、それに伴う経済的負担の増大や失業率の増加も受けて、少なくない数の貧困層が生まれている。
一方、レバノンのMNOは国有の2社のみで競争環境の整備が進まず、一般国民の収入に対して携帯電話サービスの料金が高止まりしていることでも有名である。
このようにレバノンでは様々な困難を抱えており、携帯電話サービスの普及にも影響を及ぼしている。
レバノン政府は電気通信分野の改革を必要と認識しているが、レバノンは政情不安が続く国であり、政情不安が改革計画の中止に影響したこともある。
また、2019年10月から続くレバノン危機も改革に影響を与える可能性が高い。
レバノンでは携帯電話サービスの料金が高いためにWhatsAppなどVoIPサービスの利用が多いが、内閣がVoIPサービスへの課税を決定すると抗議行動が発生し、レバノン全土に拡大した。
VoIPサービスへの課税を撤回しても抗議行動が終息せず、最終的に内閣総辞職に至った。
レバノン国民の不満はVoIPサービスへの課税のみならず、長らく腐敗した政府や悪化する経済などに不満を募らせてきた。
VoIPサービスへの課税で蓄積された不満が爆発したにすぎず、課税を撤回したところで不満が収まるわけがない。
レバノン政府はMNOの新規参入も計画していたが、倒閣後に新内閣の組閣が進んでいない状況で電気通信分野の改革を進められるわけがなく、また電気通信分野の改革が遅れることになりそうである。
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