サウジアラビアのリヤドでstcの5Gサービスを試す
- 2020年03月02日
- Report
サウジアラビアに渡航して同国の移動体通信事業者(MNO)でstcのブランド名で展開するSaudi Telecom Companyが提供する第5世代移動通信システム(5G)のNR方式に準拠した5Gサービスを試したため、周波数やエリア、使用した感想など紹介する。
2019年12月後半にサウジアラビアの首都・リヤド市へ渡航し、Saudi Telecom Companyが取り扱う中国のHuawei Technologies (華為技術)製のスマートフォン「HUAWEI Mate 20 X (5G) (型番:EVR-N29)」のMEA版でSaudi Telecom Companyが提供する5Gサービスを利用した。
Saudi Telecom Companyが運用するNR方式の周波数は3.5GHz帯で、NR BandはFR1のn78である。
第4世代移動通信システム(4G)のLTE方式と連携して動作するノンスタンドアローン(NSA)構成のOption 3を実装しており、NR方式の接続にはアンカーバンドとして動作するLTE方式への常時接続が前提で同時通信を行う。
同時通信を実現する技術がデュアルコネクティビティ(E-UTRA-NR Dual Connectivity:EN-DC)で、標準化団体の3GPP (3rd Generation Partnership Project)ではNR BandやLTE Bandなどに加えてEN-DCの組み合わせが定義されている。
Saudi Telecom Companyで確認できたEN-DCの組み合わせはDC_1A-3A_n78AおよびDC_1A-3A-28A_n78Aで、LTE方式の2.1GHz帯(Band 1)がアンカーバンドとして機能する。
EN-DCが動作時にLTE方式はBand 1を優先の搬送波とするキャリアアグリゲーション(CA)の利用も可能で、基本的に第二の搬送波に1.8GHz帯(Band 3)、もしくは第二と第三の搬送波にBand 3または700MHz帯(Band 28)が追加された。
NR方式のアンテナ統合型無線装置はほとんどがスウェーデンのEricsson製である。
HUAWEI Mate 20 X (5G)のMEA版ではNR方式のカバレッジを検出するとアンテナピクトが5G表示に切り替わり、信号強度はアンカーバンドのLTE方式とNR方式が個別に表示される。
一部の機種ではNR方式のカバレッジの検出に関係なくLTE方式で接続時にSIB2のupperLayerIndication-r15で判断して5G表示となる場合があるが、HUAWEI Mate 20 X (5G)のMEA版はそうではない。
ただ、アンテナピクトが5G表示でもすべてのデータ通信がLTE方式を介する場合もある。
NR方式の信号強度が-140dBmまでアンテナピクトは5G表示が維持されるが、NR方式のカバレッジを検出していても、NR方式の信号品質が悪ければすべてのデータ通信はLTE方式を介する。
Saudi Telecom Companyは5Gサービスのカバレッジを公開しているが、あまり参考にはならない印象を受けた。
リヤド市ではNR方式のアンテナ統合型無線装置は決して多いとは言えず、また1局でカバーできる範囲も狭い。
アンテナ統合型無線装置を設置する施設の高さ、チルト角、出力、周辺の遮蔽物などによってカバーできる範囲も変わるが、リヤド市の中心部ではアンテナ統合型無線装置の設置場所から300m強、見通しが良好な場所でも400m強~500m弱で-140dBmから圏外となった。
5Gサービスの利用者も少ないためか、アンテナ統合型無線装置の場所を特定し、信号強度などから最適な場所を判断して通信速度を測定すると下りは1.2Gbpsを超えるほどの高速な通信を体験できたが、エリアは非常に狭いと言わざるを得ない。
リヤド市は公共交通機関の整備が遅れており、移動手段はほとんどが自動車となる。
自動車はかなりの速度を出す運転手も多く、移動中はアンテナピクトが5G表示に切り替わるも一瞬だけで、すぐにNR方式は圏外となることも多かった。
Saudi Telecom Companyの音声通話対応プランでは5Gサービスにアクセスするためにはオプションの5G Keyに加入する必要がある。
当初は2019年12月24日までの申込分までは5G Keyを無料と案内していたが、当面は無料とする方針に変更した。
5Gサービスを利用できる場所が限定的であるため、5G Keyを有償化すれば苦情の嵐になりそうにも感じていたが、Saudi Telecom Companyも有償化できる段階ではないと判断したと思われる。
5Gサービスの整備が十分でないことや、5Gサービスの加入者を集める目的など背景は様々であるが、、当初は5Gサービスのオプションは無料で、開始から一定期間が経過してから有償化する計画の移動体通信事業者はSaudi Telecom Company以外にも存在する。
数少ない最適な場所を見つけ出すことができれば極めて高速な通信を体験できるが、NSA構成のOption 3の段階では5Gの特徴の一部である超高速大容量(eMBB)を実装したにとどまり、5Gサービスを活用できる画期的なサービスもなく、さらにエリアが狭く対応する料金プランも高額な上位プランに限られるため、実用上の利点はそれほど感じられなかったというのが5Gサービスを試した時点での率直な感想である。
なお、Saudi Telecom Companyはサウジアラビアの3社の移動体通信事業者のうち最大手で、Saudi Telecom Companyの株式の70%をサウジアラビア政府系ファンドのPublic Investment Fund (公共投資基金:PIF)が保有するため、事実上の国有企業と言える。
サウジアラビアで最初に5Gサービスを商用化した移動体通信事業者がSaudi Telecom Companyであり、2019年6月20日より5Gサービスを提供している。
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Saudi Telecom Companyの営業所 (リヤド市)
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