ウラジオストクの携帯電話事業者ACOSのプリペイドSIMを試す
- 2018年12月09日
- Report
ロシアの沿海地方(プリモルスキー・クライ)の首府・ウラジオストク市を訪問してウラジオストク市を拠点とする移動体通信事業者(MNO)であるACOSを試したので紹介する。
かつてロシアでは地域限定の移動体通信事業者が多く存在したが、統廃合が進んで多くの地域限定の移動体通信事業者は消滅した。
過去に沿海地方ではウラジオストク市に本社を置く移動体通信事業者としてNew Telephone Company (NTC)も存在したが、New Telephone CompanyはロシアのVimpelComに買収されて、その後にNew Telephone Companyを消滅会社としてVimpelComとNew Telephone Companyを統合したため、ウラジオストク市に本社を置く移動体通信事業者はACOSのみとなった。
ACOSはTele2ブランドで移動体通信事業を展開しているが、これには複雑な経緯がある。
元々は沿海地方で最初の移動体通信事業者として設立されたACOSはロシアのRostelecomの子会社であり、ACOSブランドで展開していた。
なお、Rostelecomへの出資比率は経済開発貿易省(Ministry of Economic Development)傘下の連邦国家資産管理局(Federal Agency for State Property Management)が45.04%、Rostelecomの全額出資子会社でロシアのMOBITELが12.01%、経済開発貿易省が全額出資する政策金融機関のVnesheconombankが3.96%となり、Rostelecomは直接的および間接的にロシア政府が過半以上を保有する国有企業である。
Rostelecomのブランド戦略の一環でACOSを含むRostelecom傘下の移動体通信事業者はRostelecomブランドに統一することになり、ACOSも2012年にRostelecomブランドとしたが、ACOSの名は社名として残った。
一方、ロシアの移動体通信市場にはスウェーデンのTele2も参入しており、子会社のTele2 Russiaを通じて移動体通信事業を展開していた。
しかし、Tele2はTele2 RussiaをロシアのVTB Bankに売却し、Tele2とTele2 Russiaは資本関係を解消したが、Tele2 RussiaはTele2とのブランドライセンスの契約に基づいてTele2ブランドを使った。
ロシアの移動体通信市場でTele2 Russiaは4位、Rosteelecomは5位といずれも伸び悩む状況で、競争力を高める目的などでTele2 RussiaとRostelecomは移動体通信事業の統合で合意し、Tele2 RussiaとRostelecomは移動体通信事業を手掛ける合弁会社としてT2 RTK Holdingを設立した。
T2 RTK Holdingへの出資比率はスウェーデンのTele2 Russia Holdingが55.0%、Rostelecomが45.0%である。
Tele2 Russia Holdingへの出資比率はVTB Bankが50%で、VTB Bankへの出資比率は連邦国家資産管理局が60.9%となっている。
したがって、T2 RTK Holdingはロシア政府による持分比率が間接的に40%強のロシア政府系企業と言える。
Tele2 RussiaとRostelecomが保有する移動体通信関連資産はT2 RTK Holdingの傘下に移管し、Tele2ブランドとすることに決めた。
こうしてACOSはT2 RTK Holdingの傘下に入り、Tele2ブランドで展開することになった。
Rostelecomの子会社ではなくなったが、これまでの経緯から依然としてACOSの本社はRostelecomの事務所がある建物に入る。
Tele2ブランドで展開するT2 RTK Holding傘下の移動体通信事業者はT2 Mobile、Saint-Petersburg Telecom、そしてACOSの3社である。
T2 MobileとSaint-Petersburg TelecomはT2 RTK Holdingの全額出資子会社で、ACOSへの出資比率はT2 RTK Holdingが94.4456%となっている。
T2 Mobileはクリミア半島やSaint-Petersburg TelecomおよびACOSの免許対象区域を除くロシア全土、Saint-Petersburg Telecomはサンクトペテルブルク連邦市、レニングラード州、ヴォログダ州、プスコフ州、ACOSは沿海地方で移動体通信事業を手掛ける。
そのため、沿海地方でTele2ブランドの移動体通信サービスを契約するとACOSと契約することになる。
なお、沿海地方はロシア全土のうち面積はわずか1.0%、人口は2017年時点でわずか1.3%にとどまり、ACOSは世界最大の面積を誇るロシアでも沿海地方のみで契約できる。
ようやく本題となるが、筆者は沿海地方の訪問に合わせて、ACOSのプリペイドSIMカードを購入した。
ウラジオストク国際空港(VVO)にはMobile TeleSystems (MTS)とVimpelComは専用の販売所があり、ほかに複数の移動体通信事業者と仮想移動体通信事業者(MVNO)を取り扱うブースも存在するが、ウラジオストク市内に出てACOSの販売店で手に入れた。
新規加入で購入できるプランとして提示されたプランは料金が250ロシアルーブル(約420円)で400分の音声通話と10GBのデータ通信、350ロシアルーブル(約590円)で700分の音声通話と20GBのデータ通信を含むプランで、いずれも有効期間は1ヶ月である。
データ通信は10GBで十分なため、筆者は250ロシアルーブルのプランを選んだ。
本人確認書類と滞在場所の提示を求められ、本人確認書類としては旅券、滞在場所はホテルの予約書を提示した。
すぐに手続きは終わり、端末にSIMカードを挿入すると即時に利用できた。
SIMカードのサイズはMini SIM (2FF)サイズ、Micro SIM (3FF)サイズ、Nano SIM (4FF)サイズのトリプルカットとなるため、購入時にサイズを気にする必要はない。
なお、契約書の赤枠内がACOSを意味する。
ACOSの正式な商号は英語がClosed Joint Stock Company «ACOS»、ロシア語がЗакрытое акционерное общество «АКОС»である。
赤枠内にはロシア語でЗакрытое акционерное общество «АКОС»と記載されている。
契約書のЗакрытое акционерное общество «АКОС»を見た瞬間は少しだけ感動した。
なお、ロシアでは契約書を渡さない場合もあり、店頭で従業員に署名入りの契約書を利用者側で保持したいと伝えると、ほとんどの場合は契約書を貰えると思われる。
プリペイドSIMカードはLTEサービスにも対応しており、通信方式と周波数はFDD-LTE方式が2.6GHz帯(Band 7)、1.8GHz帯(Band 3)、800MHz帯(Band 20)、W-CDMA方式が2.1GHz帯(Band I)、GSM方式が1.8GHz帯である。
ACOSは2018年にLTEサービスを開始したばかりであり、ウラジオストク市内の屋外では概ね問題なくLTEサービスを利用できたが、地下や屋内、またウラジオストク市外ではLTEサービスを利用できないことも少なくなかった。
地下や屋内でLTEサービスはBand 20に接続することが多く、ACOSのLTEサービスを利用する場合は、Band 20に対応した端末の用意が望ましいと言える。
APNはinternetで問題なく、ロシアの移動体通信事業者はテザリングの利用を制限している場合もあるが、ACOSではテザリングも利用できた。
復路はUral Airlines (ウラル航空)の旅客便が大幅に遅延し、Ural Airlinesが手配したアルチョーム市のホテルに抑留された。
極めて居心地が悪いホテルで、無線LANも利用できず、そんな中で安く大容量のデータ通信とテザリングを利用できるACOSのプリペイドSIMカードが大活躍してくれた。
沿海地方は電子査証を導入しており、日本国籍もその対象である。
電子査証で沿海地方を訪問した旅行者のうち最多が中国人で、その次が日本人という。
沿海地方は地理的に日本から近く、最も気軽に行けるロシアの地域のひとつと言える。
T2 Mobile、Saint-Petersburg Telecom、ACOSは地域ごとに連携する実質的に1の者とみなされ、利用者としてはT2 Mobile、Saint-Petersburg Telecom、ACOSを意識することなくTele2ブランドの移動体通信サービスを利用できるが、せっかくなので沿海地方を訪問する機会があれば、そこを意識してTele2ブランドの移動体通信サービスを利用すると新たな楽しみとなるかもしれない。
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