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北朝鮮で最初の携帯電話事業者NEAT&Tの本社・羅先国際通信中心を現地了解



朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の経済特区・羅先特別市を訪問して「North East Asia Telephone and Telecommunications Co., Ltd. (東北アジア電話通訊会社:以下、NEAT&T)」の本社を現地了解した。

羅先特別市は羅先経済貿易地帯として経済特区に指定されており、北朝鮮の北東部に位置している。

これまで、羅先特別市は羅津-先鋒市など自治体名の変更を実施しているが、ここでは羅先特別市に統一して表記する。

そもそも訪朝する日本人自体が少ないが、羅先特別市は日本人の年間渡航者数が数人~十数人と極めて少ない状況にある。

NEAT&Tはそんな羅先特別市の羅津地域に本社機能を置く企業で、タイの「Loxpac (Thailand)」が設立した羅先国際通信中心に本社機能が入る。

なお、Loxpac (Thailand)は設立時の社名がLoxley Pacificであり、2013年後半に社名を変更した。

Loxpac (Thailand)はタイに本社を置く「Loxley」の関連会社で、Loxleyをはじめとして複数の企業が共同でLoxpac (Thailand)に出資している。

NEAT&Tは北朝鮮で最初の携帯電話事業者で、北朝鮮における携帯電話の歴史は羅先国際中心が原点と言える。

基本的なNEAT&Tの企業情報を下記に示す。

■NEAT&T
社名(英):North East Asia Telephone and Telecommunications Co., Ltd.
社名(朝):동북아시아전화통신회사
通信方式:GSM方式 (終了)
周波数:900MHz帯
電話番号帯:193defghij
本店所在地:羅先特別市 南山洞, 朝鮮民主主義人民共和国
出資比率:Loxpac (Thailand) 70%, KPTC 30%

朝鮮語社名の「동북아시아전화통신회사」を忠実に直訳すると「東北アジア電話通訊会社」または「東北アジア電話通信会社」となる。

北朝鮮では一般的に「北東アジア」を「동북아시아(東北アジア)」と表現し、英語社名の「North East Asia Telephone and Telecommunications Co., Ltd.」からも分かるように地域の「北東アジア」を意味しており、また日本語では「通訊」より「通信」の方が一般的な単語であるため、日本語表記は北東アジア電話通信会社として記載される事例が多いが、北朝鮮の報道機関では漢字表記は「通信」ではなく「通訊」を採用することからそれに従った。

英社名の略称であるNEAT&Tが一般的に知られており、ロゴの「N」も英社名および略称の頭文字に由来している。

分解するとNorth (北)のNであるが、あくまでもNorth East Asia (北東アジア)のNorthであり、North Korea (北朝鮮)のNorthではない。

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NorthのNに由来するNEAT&Tのロゴ

羅先国際通信中心の建物正面は一部の文字が剥がれ落ちていたが、英語で「RASON INTERNATIONAL TELECOMMUNICATION CENTRE」、朝鮮語で「라선국제통신중심」と表記されていた。

なお、首都・平壌直轄市にある国際通信局は英語表記が「INTERNATIONAL COMMUNICATION CENTRE」、朝鮮語表記が「국제통신국」である。

英語表記こそ「CENTRE」は共通であるが、国際通信局は「국(局)」、羅先国際通信中心は中国語でよく使われる「중심(中心)」の表記を採用している。

中国と共同開発している羅先特別市は中国と人・物・金の移動が多く、通貨は朝鮮民主主義人民共和国ウォン(KPW:以下、北朝鮮ウォン)より中国人民元(CNY)が一般的に使われるなど中国の強い影響下にあり、NEAT&Tでも一般的に北朝鮮ウォンではなく中国人民元で表記されるほどであった。

北朝鮮で使用される朝鮮語には中国語に語源を持つ単語も使われることは聞いていたが、羅先特別市は特に中国の影響が強い模様で、「中心」の表記には少なからず中国の影響を受けているようにも感じた。

ただ、北朝鮮の報道機関などでも라선국제통신쎈터、すなわち羅先国際通信センターと表記する場合もある。

また、羅先国際通信中心の建物正面には「偉大な金日成同志と金正日同志は永遠に私たちと一緒におられる」と標語が掲げられていた。

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羅先国際通信中心の正面には「偉大な金日成同志と金正日同志は永遠に私たちと一緒におられる」と標語を掲示

ロビーは広々とした空間で、金日成国家主席と金正日総書記の絵画が飾られている。

詳細は後述するが、羅先国際通信中心は携帯電話端末の販売も手掛けており、金日成国家主席と金正日総書記が暖かく出迎えくださる、世界でも貴重な携帯電話販売店と言えるだろう。

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羅先国際通信中心のロビーに飾られる金日成国家主席と金正日総書記の絵画

まずはNEAT&Tの歴史を遡ると、1995年9月にLoxleyは北朝鮮政府と羅先特別市における電気通信分野への投資で合意しており、事業開始から27年間にわたる独占権も付与された。

Loxleyは北朝鮮に投資する提携企業を募り、共同出資でLoxpac (Thailand)を設立した。

Loxpac (Thailand)はKorea Posts and Telecommunications Corporation (朝鮮逓信会社:以下、KPTC)と合弁会社としてNEAT&Tを設立しており、こうしてLoxleyはNEAT&Tを通じて北朝鮮の電気通信分野に投資することになった。

なお、KPTCは北朝鮮の政府機関で電気通信分野などを管轄する「逓信省(Ministry of Posts and Telecommunications:MPT)」が全額出資する国営企業である。

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タイの首都・バンコク都にあるLoxleyの本社

NEAT&Tの取締役会はLoxpac (Thailand)とKPTCから同数の取締役を送り込み、取締役会の議長はLoxpac (Thailand)の取締役が務める。

議案の可決には過半数の賛成はもちろんのこと、少なくともLoxpac (Thailand)とKPTCの双方から1名以上の賛否表明が必要で、基本的に北朝鮮政府の意向は反映される。

当然ながら北朝鮮の法律が適用されるが、当時の北朝鮮では電気通信分野の法整備が十分ではなく、北朝鮮の法律に適用可能な条項がない場合に限り、タイの法律を適用する規則が契約内容に盛り込まれた。

NEAT&Tの利益配分はLoxpac (Thailand)が投資額を回収するまではLoxpac (Thailand)が10割、投資額を回収した翌年を1年目として15年目まではLoxpac (Thailand)が7割、KPTCが3割、16年目以降はKPTCが6割、Loxpac (Thailand)が4割となる。

1998年7月に逓信省はNEAT&Tに対して携帯電話事業の免許を交付し、これは北朝鮮で初めて発給された携帯電話事業の免許である。

NEAT&Tは羅先特別市に限定して、GSM方式の900MHz帯で携帯電話事業を手掛けることが認められた。

2001年8月にはLoxpac (Thailand)が設立した羅先国際通信中心の運用を開始し、NEAT&Tの北朝鮮における最重要拠点となった。

NEAT&Tは携帯電話事業以外の免許も保有し、羅先特別市に限定して固定電話事業、国際電話事業、インターネットサービスプロバイダ(ISP)事業、ケーブルテレビ事業を手掛ける。

携帯電話事業は開始が遅れたこともあり、当初の計画から変更して北朝鮮全土で展開することになった。

そして、NEAT&Tは2002年11月11日に羅先特別市と平壌直轄市でブランド名を「SUNNET」として北朝鮮初の携帯電話サービスを開始した。

2003年9月には道都など主要都市に提供エリアを拡大したが、2004年5月24日に携帯電話サービスを終えた。

携帯電話サービスの終了は2004年4月22日に発生した列車爆発事故と関連するとの見方が強い。

NEAT&Tが携帯電話サービスを終了後は、NEAT&Tの支援を受けてKPTCが引き続きブランド名を「SUNNET」としてNEAT&Tの設備を利用して高官や駐朝外国人に限定した携帯電話サービスを提供していたが、それも2010年12月末までに終了している。

一方で2008年12月には「CHEO Technology JV Company (逓オ技術合作会社:以下、CHEO)」がブランド名を「koryolink (高麗網)」として一般向けの携帯電話サービスを開始した。

CHEOは羅先特別市も携帯電話サービスの提供エリアとしたが、すでにCHEOからKPTCに置き換わり、羅先特別市ではKPTCがブランド名を「KANGSONG NET (強盛網)」として携帯電話事業を手掛ける。

NEAT&Tは移動体通信事業者(MNO)としての携帯電話事業こそ終了したものの、羅先特別市ではそれ以外の各種事業を継続している。

ただ、携帯電話分野では羅先特別市におけるKPTCの主要な代理店として機能し、NEAT&Tの本社や支店でKPTCのSIMカードを取り扱うため、羅先特別市ではNEAT&Tの本社や支店でKPTCの携帯電話サービスに加入できる。

KPTCを通じて仕入れた携帯電話端末の販売や修理もNEAT&Tが担っており、羅先特別市では携帯電話分野への参画は続いていると言える。

NEAT&Tが本社機能を置く羅先国際通信中心ではNEAT&Tが継続する各種サービスはもちろんのこと、携帯電話に関連した業務も受け付ける。

北朝鮮では携帯電話サービスの加入者が増加傾向にあり、地方都市の中でも経済的に余裕のある羅先特別市はほかの地方都市と比べて携帯電話サービスの加入率は高く、NEAT&Tでは携帯電話に関連した業務はもはや中核事業のひとつとなっている。

羅先国際通信中心では基本的に2階で顧客対応を受け付けており、「商店」と「修理」のスペースに分けられている。

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羅先国際通信中心にある「商店」のスペース

「商店」のスペースではKPTCの携帯電話サービスを含めた各種サービスの加入、携帯電話端末や固定電話端末、充電器など周辺機器やアクセサリ類の販売を行う。

携帯電話サービスに加入済みの人民の中では、フィーチャーフォンからスマートフォンへの買い替え需要もあり、従来は携帯電話端末のみの購入は受け付けていなかったが、携帯電話端末のみでも購入できるよう規則を変更したという。

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「商店」のスペースで売られる充電器とUSBケーブル

広々としたスペースに展示コーナーも設けられていたが、展示コーナーは一部に固定電話端末とアクセサリ類のみ展示と少し寂しかった。

北朝鮮では「Korea National Insurance Corporation (朝鮮民族保険総会社:以下、KNIC)」が携帯電話端末の保険を提供しており、保険は携帯電話端末の購入時に加入できる。

商店では保険の加入も受け付けており、NEAT&TはKNICの代理店としてKNICの保険商品も取り扱うことになる。

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「商店」のスペースで展示される固定電話端末

「修理」のスペースでは携帯電話端末の修理を受け付けており、その場で修理を行う。

商店と比べると狭いスペースであるが、その場で修理するために携帯電話端末の部品が広げられていた。

ガラス越しですべて見えるため、部品から携帯電話端末を修理する様子まで視察できた。

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羅先国際通信中心にある「修理」のスペース

羅先特別市を訪問した最大の目的がNEAT&Tの現地了解であり、滞在した3日ともNEAT&Tの本社を訪ねたが、いずれも訪問する人民は商店より修理の方が多かった。

NEAT&Tの担当者によると、羅先特別市では携帯電話サービスに加入済みの人民は多いため新規加入の需要は少なくなり、また羅先特別市では携帯電話端末の購入はNEAT&Tのほかの支店でも受け付けるが、修理は基本的に羅先国際通信中心のみ受け付ける。

これらの理由で、羅先国際通信中心では商店より修理の方が混雑する傾向のようである。

羅先国際通信中心は月曜日から土曜日まで営業しており、日曜日と祝日は休業日となる。

営業時間は平壌時間(UTC+8:30)で月曜日から金曜日が8時30分~12時および14時~17時、土曜日が8時30分~12時と案内していた。

余談ではあるが、羅先国際通信中心のそばには「羅津スポーツマンホテル」があり、北朝鮮における携帯電話の歴史の原点のそばで宿泊したいという理由で、1泊目は羅津スポーツマンホテルに宿泊した。

羅津スポーツマンホテルは長らく1級ホテルの羅津ホテルとして営業していたが、羅津ホテルから羅津スポーツマンホテルに改称されていた。

筆者は羅津ホテルの時代に宿泊した経験はないが、羅津ホテルの時代を知る複数の人民に聞くと、口を揃えて質は羅津ホテルの時代より落ちたと話す。

北朝鮮の案内人は羅津スポーツマンホテルが嫌いのようで、案内人の強い推奨を受けて2泊目は東明山ホテルに急遽変更した。

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羅先国際通信中心からすぐそばの羅津スポーツマンホテル

また、羅先国際通信中心は金日成国家主席と金正日総書記の太陽像モザイク壁画とも隣接している。

羅先特別市の人民は2015年4月に金日成国家主席と金正日総書記の銅像が公開されるまでは、太陽像モザイク壁画に献花していたという。

物理的には羅先国際通信中心の駐車場と太陽像モザイク壁画を往来できるが、太陽像モザイク壁画を訪問するためには、大通りに一度出てから太陽像モザイク壁画前の階段を上って訪問する規則があるため、訪問時は注意するようにしたい。

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羅先国際通信中心と隣接する金日成国家主席と金正日総書記の太陽像モザイク壁画

羅先特別市では北朝鮮で最初の携帯電話事業者となったNEAT&Tの歴史や現状を深く知ることができた。

また、平壌直轄市では提供していないKPTCの携帯電話サービスに関しても多くの情報を得られたため、非常に充実した時間を過ごせた。

直線距離であれば筆者の自宅からは札幌駅や那覇空港(OKA)よりも羅先国際通信中心の方が近いが、Loxleyが羅先特別市で投資するうえでの欠点として指摘していた通り、アクセスの悪さは感じた。

日本やタイから羅先特別市に渡航する場合、基本的に中国またはロシアを経由することになる。

主なルートとしては中国の延辺朝鮮族自治州から陸路で羅先特別市まで、ロシアのウラジオストク港から万景峰号で羅先特別市まで、中国やロシアの都市を経由して平壌直轄市に入り、平壌国際空港(FNJ)から国内線で清津市近郊の漁郎空港(RGO)に移動し、陸路で羅先特別市まで行く方法が挙げられるが、いずれのルートも少し面倒くさい。

羅先特別市を訪問してみて、「近くて遠い」も身をもって感じた。

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北朝鮮における携帯電話の原点となった羅先国際通信中心

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